海外調査事業のご報告

公益社団法人全国被害者支援ネットワークは、この度海外調査事業(日本財団預保納付金支援事業)を実施いたしました。
この事業は海外の犯罪被害者支援活動を視察し、日本の被害者支援活動に、その情報や体制を取り入れ、体制構築の充実の一助となるよう実施するものです。
※今回の視察の報告会を犯罪被害者等支援関係機関対象に、実施予定です。詳細が決定次第ご報告いたします。また、報告書の発行を予定しております。

この調査に参加した視察団の感想を以下にご紹介いたします。

イギリス・ロンドン CATCH22にて

■飛鳥井望(被害者支援都民センター/青木病院/精神科医)
この度の欧州視察は、期待を大きく上回る充実したものとなりました。ヘルシンキとロンドンのいずれの訪問先においても、とてもフレンドリーな雰囲気で歓迎していただき、代表者と各担当者のプレゼンと提供資料、施設見学、質疑も申し分のないものでした。両国それぞれのヴィクティム・サポート、病院付設のSARC、性被害児の司法面接と総合的ケアを提供するBarnahusモデル施設の見学が叶ったことは、視野を広げる大変貴重な体験となりました。また英国では、各地域のPCCによる地域ニーズに合わせた支援の組み立てと、その資金提供を受けたサービス・プロバイダーの活動内容を知ることで、被害者支援の枠組みを立体的に俯瞰することもできました。欧州の被害者支援の優れたレベルのサービスを、NNVSコーディネーターの皆さんとも一緒に、直に見て、聞いて、肌で感じることができたのは、これからのネットワークの活動にかならずや活かされるでしょう。

■川本哲郎(京都犯罪被害者支援センタ/法学者)
ほとんど支障なく充実した視察を行えたことについて飛鳥井団長、西田事務局長はじめ皆様に感謝申し上げます。また、JP旅行の中山氏、通訳などのスタッフの方にも感謝しています。我々のチームワークはとても良かったと思っています。 今回の視察によって、フィンランドとイギリスにおいて、性暴力の被害者支援が充実していることと、民間支援団体の活動状況を把握し、交流を図れたことが大きな収穫でした。また、イギリスでは、法務省がリーダーシップをとっていることや、性暴力や子どもと青少年など特化した支援が行われていること、民間支援団体などのスタッフで若い人が活躍していることなどを知ったのも、今後の日本の支援活動の行方を考えるときに大いに参考になると思いました。 最後に、質疑応答ではなく、様々な分野のメンバーが参加しているので、多様な視点から質問が出されたのも勉強になりました。

■関根剛(大分被害者支援センター/心理学者)
最終日、航空会社のチェックインシステムを提供している会社がサイバー攻撃を受け、ヒースロー空港など多くの空港でフライトの遅延、発券・荷物トラブルなどが発生した。「荷物が預かれない」「システムダウンしている」「こっちの機械で対応しろ」「できない?じゃこっちにこい」「もうだめだから手書きで対処する」と職員も駆けずり回りながら必死に対処していた。想定外、早口の英語、何が起きていてどうなるのかわからない。そんな中での情報、正確な状況説明、見通し、的確な指示、不安や困惑を共有できる人の存在がどれだけ安心感につながることか。犯罪被害を受けた人に比べれば、とるにたらない体験かもしれないが、被害者が投げ込まれる状況、何が安心や信頼につながるのかを感じさせられた。今回の視察で「支援者視点」で多くの学びを得られたが、それだけではなく「被害者視点」を忘れてはならないというメッセージでもあったのかもしれない。

■齋藤実(琉球大学法科大学院/法学者)
視察団の構成メンバーは精神医学、心理学、法学さらには被害者支援の第一線に方々から構成されていることが、大きな特徴と思います。視察先ではそれぞれの分野から多彩な質問がされ、その質問が視察先の方の意見と交わりダイナミックな議論がされました。また、視察国は、フィンランドと英国はいずれも福祉国家ですが、被害者支援のあり様は異なっており、その違いからも多くを学ぶことできました。例えば、両国も子どもの家(Barnahus)を導入しようとしていますが、導入の積極性は両国で異なっていました。また、民間支援団体の状況も、組織の構成や財政面などに違いがあるように思います。このように、本視察では、構成員メンバー、視察国、視察先が実に多様で、この多様性から多くのことを学ばせていただきました。飛鳥井先生をはじめとする視察団の皆様、被害者支援ネットワークの皆様に、このような機会をいただいたことに感謝を申し上げます。

■齋藤梓(被害者支援都民センター/心理学者)
今回の視察では、性暴力被害を受けたこどもたちを対象として、初期から刑事司法プロセス支援や心理支援を一か所で提供しているbarnahusモデルの施設を見学したいと思っていました。結果的に、フィンランドとロンドンの二つの施設を見学させていただき、どのような運営、支援を行っているのかを知ることができ、とても勉強になりました。スタッフの方々が、心から、こどもの幸福と安全、権利を最優先に考えている姿勢に胸が熱くなりましたが、その一方で、日本において、まだまだこどもたちが刑事司法プロセスの中で傷つき続け、適切に支援が行われていない現状を振り返り、涙が出そうになりました。しかし現状を悲観してばかりではなく、被害を受けたこどもたちが、二重三重に傷つくことのない社会にしていくために、今回学ばせていただいたことを活かしていきたいと思います。食事をしながら、あるいは視察をしながら、同行した皆さんと被害者支援について熱く語ることができたのも、良い経験でした。参加させていただき、有難うございました。

■林貴子(ぎふ犯罪被害者支援センター)
この度NNVS認定コーディネーターとして海外視察に参加させて頂きました。フィンランドで3か所、イギリスで5か所の合計8か所を訪問しました。どの訪問先でも笑顔での出迎えを受け、担当の方がその日のために準備した資料を、熱心に熱く説明をして下さりました。フィンランド語、英語での説明を通訳さんが日本語で解説するのですが、言葉の意味がわからなくても、担当の方々が被害者支援に対して使命感をもって努力されていることが伝わって、同じ仲間なのだなという気持ちが持てた気がしました。 それぞれの訪問先で実際に目で見たことや得られた情報は、今後の被害者支援を考えるにあたって重要なものであることは当然で、私たち参加者にはそれを伝えていく責任があると思います。それはこれからのことになるのですが、日本に戻って3日経って、各訪問先で出会った方々の笑顔が懐かしく思い出され、世界で頑張っている人の一員として、私もできることをしていこうと考えています。 このような機会を頂き本当にありがとうございました。

■野﨑さおり(みやざき被害者支援センター)
今回の海外視察は、私自身が初めての海外で不安の方が大きかったが、飛鳥井先生をはじめ、参加メンバーと一緒に視察できたことが大きな感激だった。そして、訪問した施設すべてが大きな学びとなった。最も印象に残った施設は、フィンランドのバーナヒュースのユニットの取り組みだった。被害にあった子どもは、被害にあったことをうまく話せる子ども、話せない子どもがいるので、ユニットを導入すれば被害直後からその後のケア(心理的ケア)を専門家から受けられる。話しを聞いて率直に、日本にも同様のユニットがあればいいなと思った。また、イギリスのライトハウスは、施設全体が参考になった。現在、自センターの相談室が殺風景なので、特に子どもの向けの物を飾ったり置いたりして参考にしたいと思った。どの施設も魅力的な訪問だった。施設以外に一番印象的だったのは、初日「いざ出発!」とバスに乗ったが、バスのエンジントラブルで運転手から「GO!GO!」と大声で外にでるよう指示されたことが一番の思い出かもしれない。

■片山文(被害者サポートセンターおかやま)
この度、訪問させていただいた施設では、設備だけでなく職員からもトラウマインフォームドな雰囲気があふれ、遠く離れた日本で自分たちと同じように被害者支援をしている私たちを、とても温かく迎えてくださいました。フィンランド、ロンドンとも、性暴力被害者支援がとても充実しており、子どもであっても「個人の意思を尊重する」ことと「トラウマインフォームドケア」これらが徹底されていました。例えば性暴力被害に遭った子どもの検査の前に、診察の流れの説明が写真とともに印刷されたものを使い、視覚からも情報が得られるようになっていました。検査拒否はできなくても、年齢に合わせた説明を受け、イメージを持って診察されるのと、そうではない状態で診察されるのとでは、不安や恐怖心の軽減につながり、「再トラウマ化を防ぐ」という強い姿勢が感じられました。また、「自分と同じように犯罪被害に遭い、ケアを受ける子にメッセージを残す」というエールのPay it forwardは、被害によって傷つけられた心身がケアされて、自分の経験が誰かを励まし、役に立つ感覚・・・ケアだけではなくエンパワメントのサポートもきちんとされているのが分かりました。「そこにある一つひとつが、被害者のためにある・・・」というのを強く感じました。 異国の地に立ち、自分自身、支援、自センターなど、外から眺める、振り返る、考える機会にもなりました。また、空港でのトラブルを経験し、文化や言語が違う国で犯罪被害に遭うことの不安や恐怖に思いを馳せることもできました。現場の空気感、スタッフの熱量や使命感など、文字からでは得られない、現地に行かないと得ことのできない雰囲気、そして、飛鳥井先生をはじめ被害者支援のオーソリティである先生方とのお話しも大変貴重で興味深く、時に面白く・・・振り返ると夢のような1週間でした。学ばせていただいたことをこれからの被害者支援に活かしていきたいと思います。 このような機会をいただいたこと心から感謝申し上げます。

■工藤美貴子(あおもり被害者支援センター)
この度、海外視察のメンバーの一員として得た経験は、自分にとってとても貴重な経験ばかりでした。現地の各施設では取り組みや予算、人材などお話を聴くことで刺激もたくさんありました。同時に、視察メンバーのみなさんと日本との違いやこれからの日本での被害者支援についてなどを話せたことは自分の視野を広げられる大きなきっかけとなりました。まずはすぐに取り組めることから始めていこうと思います。そしてその先も見据えながら今回視察で得たことを活かしていけるように声をあげていきたいと思っています。あっという間の海外視察でしたが、自分の中に確かな変化があります。ここからがスタートです。  ほぼ初めての海外は出発前から到着後まで予想だにしない出来事ばかりおきました。(バスエンジンからの煙、トナカイの肉、落とし物の奇跡、常に満腹、疑惑の粉と三文判、スリ注意、身近だったサイバー攻撃、+10キロの謎など)視察メンバーの皆さん、添乗員さんや現地の同行の方、通訳の方、この視察の準備をしてくださったネットワークの方々、送り出してくれた方々、皆さんのおかげで無事に生きて帰ってこれたと心から感謝しております。 

■西田明(全国被害者支援ネットワーク)
今回も、視察期間は5日間で2か国を対象に、訪問した団体・機関は、ヘルシンキ 3か所、ロンドン 5か所と大変ハードなスケジュールでした。滞在時間も1.5時間から3時間と短時時間ではありましたが、事前の準備や質問状などが功を奏してたいへん充実した視察になったと感じています。調査団の飛鳥井団長を始め、メンバーの協力、そして訪問先との折衝・調整に尽力いただいた関係者に感謝致します。特に、川本先生、齋藤梓先生には、全てのスケジュールを埋めるため、最後の最後までご尽力を頂きましたこと、重ねて御礼申し上げます。 全ての訪問先に歓迎いただき、あたたかく親切にご対応いただきました。そして、全ての訪問先が、時間をかけて準備をしていただいたと感じられ、大変ありがたく思いました。 今後、海外調査事業(フィンランド・イギリス)活動報告書を作成・配布し、また同報告会を開催するなど、加盟団体や関係機関への共有と展開を図り、犯罪被害者支援の充実化に寄与したいと思います。加えて、今回の訪問がきっかけとなり、訪問した団体・機関との関係が続き、深まることを期待しています。

■スケジュール
期間:2025/09/14~2025/09/21
視察国:フィンランド・イギリス
視察スケジュール:
<フィンランド>
9月15日 09:00~11:00 Victim Support Finland  フィンランド被害者支援協会 
9月15日 13:00~15:00 Barnahus Helsinki Unit 虐待や性犯罪の被害が疑われる子供たちへの専門支援機関
9月16日 9:00~11:00 Seri Support Centre 性暴力被害者のための治療ユニット
午後イギリスへ移動

<イギリス>
9月17日 9:30~11:00 Association of Police and Crime Commissioners  英国PCCの連合組織 
9月17日 14:00~15:00 Victims' Commissioner 被害者と証人に対する刑事司法制度サポート機関 ※先方のご都合で視察中止
9月18日 10:00~12:00 THE HAVENS 病院拠点型の性暴力被害者のためのワンストップ支援センター
9月18日 13:30~16:00 Victim Support 犯罪やトラウマ的な事件の被害を受けた人々の支援機関
9月19日 9:00~12:00 The Lighthouse Barnahusモデルに基づく子どもの性暴力被害ワンストップ支援センター
9月19日 15:00~17:00 catch22 社会的に不利な立場にある人々や地域社会に対して、レジリエンスと向上心を育むサービスを提供 

  関連記事

no image
11/25(土)JR池袋駅東口 犯罪被害者週間募金活動のお知らせ
11/25~12/1の犯罪被害者週間にあわせ、全国被害者支援ネットワークは、東京光が丘ライオンズクラブの皆様、少年野球チームメンバーの皆様と ...
東京大学教養学部 犯罪被害者支援を考える・学ぶ講座を実施しました。
東京大学教養学部にて、犯罪被害者支援を考える・学ぶ講座を実施しました。この講座は日本の未来を担う大学生・大学院生の方を対象に実施しているもの ...
全国犯罪被害者支援フォーラム2017採録版 発行しました
2017年10月6日(金)に、警察庁・日本被害者学会・犯罪被害救援基金との共催で開催した「全国犯罪被害者支援フォーラム2017」の採録版を発 ...
no image
テレビ朝日系列「テレメンタリー」(12/18他)放映のお知らせ
この度、当団体の芦塚増美理事が支援した事件について、テレビ朝日系列にて放映されます。 番組内容は以下のとおりです。 ぜひ、ご覧ください。 2 ...
明後日10/15~ ホンデリング(チャリボン)買取額 10%アップキャンペーン!
10/15~11/15まで、ホンデリング(チャリボン)買取額10%アップキャンペーンを実施します。 この機会に不要な本やDVD、コミック等で ...
no image
公益社団法人 大分被害者支援センター 相談時間延長のお知らせ
公益社団法人大分被害者支援センター(大分県)は、4月から相談電話開設時間を平日9:00~20:00までといたします。 大分被害者支援センター ...
スマートフォンアプリ「こころちゃん」
もし、事件や事故の被害にあったら...。「こころちゃん」は、被害者の方々の状況や、支援・相談先について知ることができる、犯罪被害者支援教育ア ...
7/4 質の向上研修東北・北海道ブロックを開催しました
質の向上研修東北・北海道ブロックを開催しました。この研修は、支援の質を全国的に均一化し、よりより支援を提供できるよう外部講師を招き、またコー ...
R5年度春期全国研修会(コーディネーター研修)を開催しました
2/16~2/18までの三日間にわたり、R5年度春期全国研修会(コーディネーター研修)を開催しました。 この研修は、被害者支援センターで相談 ...
no image
犯罪被害者週間 街頭募金・広報啓発活動のお知らせ
全国被害者支援ネットワークでは、11/25~12/1の犯罪被害者週間にあわせ、街頭募金・広報啓発活動を実施します。お見かけの際はご協力、よろ ...