
犯罪被害者等基本法(以下「基本法」といいます。)の基本理念にあるとおり、犯罪被害者等の支援の最終的目標は平穏な日常生活を確保することですが、個別の生活場面だけではなく被害直後から医療・福祉、住宅、雇用など「生活全般にわたる支援」という切口でその取組が強調されたのは、ここ数年来のことではないかと思います。2008年、基本法を踏まえた犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律の改正により、被害の早期軽減にとどまらず、支援の射程が、平穏な生活の確保までとすることとされましたが、2016年にスタートした第3次犯罪被害者等基本計画において、同計画のポイントの一つとして被害者等の「生活全般にわたる支援」が掲げられ、その項目として「専門職の活用を含めた地方公共団体における支援の充実促進」と「民間の被害者等の援助を行う団体の活動促進」の2つが示されました。そして、同計画には、被害者等に対して「生活全般にわたる支援」を提供できるよう地方公共団体や民間団体とともに、継ぎ目のない支援体制を構築し、被害者等を中長期的に支援するという視点からの体制整備への取組が行われなければならない、ということが記載されたのです。今、まさに、被害者等の身近なところで、平穏な生活の確保まで「生活全般にわたる支援」が求められているのです。

当基金は、昭和55年の犯罪被害者等給付金支給法成立に際し、衆参両議院で、経済的に困難な状況にある犯罪被害者の遺児等に対する奨学金制度の創設を促す附帯決議がなされたことを受けて、昭和56年5月21日、民法第34条に基づく公益法人として設立されました。その後、公益法人制度改革が行われ、平成23年4月1日に公益財団法人犯罪被害救援基金に移行しましたが、発足以来、令和3年5月に創設40周年を迎えました。国会の附帯決議を契機に当基金が創設された次第ですが、当初は運営資金の確保に大変なご苦労があったと聞いております。しかし、基金の公益事業への賛同・支援の輪が徐々に拡がり、経済界はじめ多くの国民の皆様からご寄附が寄せられたおかげで、当基金は、これらの浄財を基本財産として、人の生命又は身体を害する犯罪行為により不慮の死を遂げ、又は重障害を受けた犯罪被害者の子弟に対する奨学金の給与及びその他の犯罪被害者等に係る救援事業を40年にわたり継続することができました。

ここまで数々の困難を乗り越えて活動を続けてこられた方々の持続力に敬意を表したいと思います。現在では警察と連携した支援の方式、例えば被害者への早期支援の在り方や、裁判の支援など、様々な支援活動が、安定した活動として位置付けられており、犯罪被害者支援に大きな役割を果たしています。大学の授業などで、被害者支援の活動があって当然だと考えている若い人を見ると、この30年の変化に驚かされます。

刑法学の世界に入って最初に関心を抱いたのは過失犯でした。1970年代の過失犯論争を学んだことから、過失犯罪者の研究に取り組むことにしました。過失犯罪者の大半は交通犯罪者だったので、同志社大学大学院での研究テーマは「交通犯罪者の処遇」となりました。この時代には、まだ犯罪被害者、とくに交通犯罪の被害者の問題は大きく取り上げられていなかったので、この時点では被害者の問題は取り上げていません。その後、指導教授の大谷實先生のご指導もあり、被害者についての研究を開始したのは、1990年代の終わりです。

「刑事司法は、社会の秩序の維持を図るという目的に加え、それが『事件の当事者』である生身の犯罪被害者等の権利利益の回復に重要な意義を有することも認識された上で、その手続が進められるべきである。この意味において、『刑事司法は犯罪被害者等のためにもある』ということもできよう。」この一節は、2004年の犯罪被害者等基本法の成立を受けて、翌2005年に閣議決定された犯罪被害者等基本計画において、その重点課題の一つである「刑事手続への関与拡充」の意義を説明する文章の中に盛り込まれたものである。犯罪被害者が、捜査・公判を含む刑事手続について、犯人を適正に処罰することにより事件の正当な解決をしてもらいたいという希望を持つのは当然のことであり、刑事手続がその希望に応えるように運用されるべきであることは、それまでも意識されていなかったわけではない。しかし、法律的には、犯罪被害者は、刑事手続の中で証拠方法の一つとしての位置付けしか与えられておらず、自ら刑事手続に参加し、その結果に影響を及ぼす訴訟行為をすることはもちろん、刑事司法機関に対し、事件の正当な解決を求める権利も認められていなかった。