犯罪被害者に寄り添い支える 公益社団法人 全国被害者支援ネットワーク

全国被害者支援ネットワークは、全国48の加盟団体と連携・協力しながら
犯罪被害に遭われた方々へ支援活動を行なっています。

犯罪被害者の声 今 どんな大人に

今 どんな大人に

公益社団法人くまもと被害者支援センター
   匿  名
「犯罪被害者の声 第16集」より

今、どんな大人になっているのだろう。
最近妹のことを思うとき、浮かぶ言葉です。
妹を亡くして8年の月日が経とうとしています。
私が21歳の時に行方不明となり、そのまま帰ってくることはなかった妹。
インターネットで知り合った男にすでにその日には殺害されていました。
遺体が見つかるまでの1か月、無事を信じて帰りを待っていた妹と再会したのは
警察署の遺体安置所の扉越しにでした。

あれから8年も経ったのかと思う反面、あっという間の8年でありますが、
妹の写真はまるでひまわりのような笑顔で、変わらず家族を見守ってくれています。
新緑の時期、この季節になると、世間はゴールデンウィークでにぎわい、家族連れで外出するニュースが溢れますが、私にとっては悲しい季節です。きっとどれだけの時間を経ようとも、この形容しがたい喪失感は変わらず残り続けることと思います。
昨今、世間では新型コロナウイルスが大流行し、芸能人の自殺などが取り上げられ、暗い社会となっています。
この8年で、私も学生から社会人となり、職場も一度変わり、父はもともと住んでいた家を離れ、長女は結婚し、姓が変わりました。当時高校生だった長女が、今や結婚し、立派に仕事と家庭を両立させている姿を見ると、亡くなった妹は今、どんな大人になっているのだろうと思うのです。長女の結婚式に参列した際、父と長女が腕を組んでバージンロードを歩いて来る時です。私はチャペルの最前列でそれを見ていました。
本当であれば、ドレスアップをした妹も私の横にいて、父と長女が歩いて来るのを眺めながら、「父さん泣きそうやら!あとでからかってやろ!」などと軽口をたたき、その幸せな時間を共有していたはずです。
親族席で、一緒に食事に舌鼓をうち、ウェディングドレスを着た長女を見ながら、「ふーん。姉ちゃんなかなか似合っとるやん」と言っていたことと思います。
長女の結婚式で流れる映像には、まぶしい笑顔でこちらに笑いかけてくる妹がいました。
一緒に「こんなこともあったねえ」「家族で旅行にいったねえ」と何気ない会話をしていたはずです。
負けず嫌いなところもありましたから、「姉ちゃんより派手な式にして、かっこいい旦那を連れてくるけんね」と笑いながら言っていたかもしれません。もしかすると、長女よりも早く結婚し、幸せな家庭を築いていたかもしれません。仕事をしながら、あるいは子育てをしながら、持ち前の明るさで、周囲に元気を与えてくれていたはずです。長女が幸せな姿を見せてくれたように、妹もそうだったはずです。残された私たちは、きっとこんな大人になっているだろうなあという漠然としたイメージでしか、妹の「今」を想像することができません。
想像ではなく、多少の失敗や困難に躓くことはあれど、生きてさえいてくれていたら…とやはり思うのです。
妹を亡くした時、「あの時ああしていれば」と思うことが多かったのですが、今はどちらかというと「生きていてくれたら一緒にこんなことをしたかった」と思うようことが増えました。先日、長女が私のアパートを訪れ、仕事や家庭の話等いろいろな話をしてくれました。ちょうどお昼時で、お腹もすいてきたというので、スーパーに買い物に行こうということになり、私の運転で長女は助手席で、買い物に出かけました。長女と2人きりで買い物というのも十数年ぶりでしたが、移動手段も自転車から自動車になり、会計も自分の財布から終え、食事の準備も2人で行いました。生活を共にしていた、子どもの時代には考えられないことで、新鮮だったのと同時に、ここに妹もいて3人で、一緒に買い物をし、食事ができたらなあと思ったのでした。車で遠出してみたり、お酒を飲んでみたり、大人になっていろいろなことを共有したかった。生きていてくれたら、どんなことをしていたんだろう。と、あったはずの現在のことを想像でしか家族と共有できない悲しさ。どんな形でも、生きてさえいてくれていたら。
きっと、これからの私の人生のいたるところで、このやるせない気持ちは顔を出すのだろうと思います。
何ら特別なことはない日常の中で、妹がこの場にいたら、こんな話をしただろう。こんなことをしただろう。とことあるごとに妹に思いを馳せながら、生きていくのだと思います。
妹がなくなって8年たちますが、それだけの時間を経ても、当時お世話になった警察の方や、妹の担任をしてくださっていた学校の先生、被害者支援センターの方々も、妹に思いを馳せてくださいます。お花を供えてくださったり、手紙を下さったり、本当にありがたく思っています。支えてくださる皆様がいらっしゃるからこそ、私は今、平穏な日常を送れているのだと気づかされます。妹がいない今でも、残された家族は生きていかなくてはなりません。一歩ずつ歩を進めていかなくてはなりません。世間では妹の事件は風化し、消え去っています。妹が生きていたという事実はほとんどこの世の中には残っていません。でも、それはあまりにも悲しすぎることです。妹は17年間という人生を精一杯生き抜きました。それを知ってほしい。犯罪被害で苦しむ家族、兄弟がいなくなるように、妹の事件のことを知ってほしい。SNS やインターネットが普及し、中学生や高校生が見知らぬ人と手軽にコミュニケーションが取れる今の世の中だからこそ。この手記を読んでいただいた方は、どうか身近な人にそれを伝えてほしい。それはお子さんかもしれないし、兄弟、姉妹かもしれません。それが、今私が兄として妹にできることだと思っています。 

最後に妹へ。

きっとお前のことだから素敵な大人のお姉さんになっているんだろうな。
明るく元気で、まるでひまわりの花みたいに変わらずニコニコしていると思う。
大人になった兄妹3人で少し奮発して、親父とお袋とじいちゃん、ばーちゃんに美味しいご飯を食べさせてやろう。
一緒にご飯を食べて、おいしいお酒を飲もう。
一緒に何でもない話をしよう。

姉ちゃんは結婚して仕事も頑張ってるよ。 
親父は引っ越して、最近はタブレットを買って音楽を聴くことにハマってる。
俺は仕事が大変だけど元気にやってるから。
きっと知っているだろうけれど、伝えたかった。
皆何をしていても、どこにいても、お前のことを想ってるから。
だから、心配しなくていいからな。
でも、たまにでいいから親父の夢に出てやってほしい。
いつも俺の夢にばかりでるから、親父は少し寂しいと思うんだ。
だから、それだけお願いな。

兄貴より