犯罪被害者に寄り添い支える 公益社団法人 全国被害者支援ネットワーク

全国被害者支援ネットワークは、全国48の加盟団体と連携・協力しながら
犯罪被害に遭われた方々へ支援活動を行なっています。

犯罪被害者の声 杏菜と直人・・二人の命そして、残された命

杏菜と直人・・二人の命そして、残された命

認定NPO 法人長野犯罪被害者支援センター
市川 武範
「犯罪被害者の声 第16集」より

警察に相談、被害届を出しながらも事件を防げず被害者が生まれてしまう、まさか我が家もその一件になろうとは夢にも思わなかった…

2020年 5月26日 23時12分にかかってきた杏菜からの電話、返答がない、悪い予感がして職場から自宅へ急行した私の目に飛び込んで来たのは左側頭の銃痕から血を流しうめき声をあげている杏菜、ドアの空いている寝室の入り口には胸の下を血の海にうつ伏せに倒れている直人、リビングには見知らぬ大男が倒れていて妻の姿がない、奥の部屋で殺されてしまったのかもしれない、「何でこんな事になってるんだ! 張り込みをしていたんじゃなかったのか?!」とにかく子供を助けなきゃと思い直人の生存確認を行い携帯電話を持ったその時にかかってきた電話、近所に助けを求めた妻からでした。「妻は生きていた‼」119番通報をしながら外に出て現場となってしまった自宅に戻って来た妻と落ち合い、先ず救急車、そしてパトカーが来ました。二人は別々の病院に搬送され、翌朝、旅立ちました。

二日前の24日夜、二人の兄である私の長男が見知らぬ男から暴行されケガをし、車を壊される被害を受けました。勤務先の職場は違うものの気が合う女性社員と会社前のコンビニで話をしていた所、突如現れ、名乗る事も互いの身分照会も無く、いきなり殴られたとの事、仕返しを恐れ警察には被害届を拒む長男に対し「何も悪い事をしていないのだから暴力を許さない為にも警察に届ける案件だ」と説得し25日未明に私と共に所轄の警察へ赴き、調書~医師の診断書~現場検証を終え署に戻ったのは夜でした。逮捕状請求書類は翌日作成する事になり、長男と共に帰ろうとしたその時に身内の者から電話が有り、加害者が自宅に現れたとの事、刑事が自宅へ向かい、逮捕状請求書類を作成し長男は警察保護下へ避難、家族は警察と協議し避難はしない事とし私は帰宅しました。逮捕状が出ていないので加害者は一旦解放したとの事でしたので私達に危機感は全く感じられませんでした。加害者には前科が有り女性社員の元夫でした。帰宅した私は妻と杏菜に「張り込みをしているだろうけれども念の為、鍵はかけたまま、誰か訪ねて来ても居留守を使う事、コロナ禍で久し振りの分散登校の直人の駅までの送迎をする事」等を打ち合わせました。

逮捕状は発行されたものの26日夕方時点では逮捕に至らず、着替えを取りに署員と共に一旦自宅に戻った長男に対し「お兄ちゃん気を付けてね」と心配する杏菜と直人。まさかその数時間後に自分たちが襲われる事になるなんて…

私は職場で仕事を終えた後も、加害者の名をネット検索していました。いったいどんな男なんだろう?前科の事件は一件有りましたが凶悪事件では無く、その程度でしたので、逮捕の連絡も無いし「トンズラしちゃったんだろう」などと思っていました。こんな事になるのなら、逮捕の連絡が無いうちは勤務後すぐに帰宅すべきだった、自宅のパソコンで加害者情報の検索出来たじゃないか、もし、あの時間に私がいれば杏菜と直人、妻の3人を逃す時間稼ぎは出来たと思います、いや、出来たはずです。私は撃ち殺されたでしょう。でも未来ある二人の命を救う少しの時間稼ぎは出来たはず、今もその思いは消えませんし、消える事は無いでしょう。
妻は玄関に追い詰められた杏菜の右隣りに居ました。撃たれて悲鳴と共に崩れ落ちる杏菜、男の銃口は直人に向けられた、その隙に助けを求めて外へ飛び出した、近所に駆け込み助けを求めた。そして自宅へ戻ってきた所で私と落ち合った。恐怖で足がすくんで動けなくてもおかしくない状況です、でも妻は駆け出した、助けたい一心で。心が傷ついています。目の前に居たのに助けてあげられなかった、私が撃たれたら良かった、なんで、なんで、・・苦しみが尽きません。大きな音に脅えます。二人のもとに行きたがります。目が離せません。

事件後、一部事実と違う報道がされ、何も悪い事をしていない長男が原因と言われ、スキャンダラスなイメージのメディア記事やネットサイトが現れ、私と共に非難の嵐でした。悪いのは犯人ただ一人なのに・・です。自宅のある自治体からは一時避難として要望した町営住宅を断られ、犯人は自殺している為に刑事裁判は行われず事実を世間に知らせる手段が無い、損害賠償をする相手がいない、又、民事の賠償金の強制力が無いなど、私達は追い詰められました。居場所を失いました。凄惨な現場となった自宅に戻る事が出来るのか、何より犯人は現場で自殺しているのです、ある程度の長い目で様子を見なければ答えが出せません。
そんな中でも、残された私達の3人で話し合ったのは「暴力を許さない社会作りに貢献していこう、それが私達を救うように亡くなっていった杏菜と直人の命を無駄にしない生き方になるのではないか?!自分達が主役でなくていい、そんな活動をしている人がいたら協力しようよ」そう思う事で生きる意味を見出そうとしていました。

各メディアからの取材は少しづつ受けられる様になりました。その根底には誤った報道により失われた長男の名誉回復の為、世間に真実を知って頂く事で長男への誤解を解き長男の命を救い、未来を切り開く為に。そして被害者が創る条例研究会シンポジウム、県弁護士会主催研修会、県警研修会等での講演と様々な方々と知り合い繋がりを持ちつつ有ります。

2022年3月26日 新あすの会 創立大会でお話をさせて頂く機会を頂きました。思いの丈を発しました。会の創立目的を理解しました。今、この国に抜け落ちているとても大切な事、7つの提言は完遂し、犯罪被害者庁設置の実現をしたい、そう思い入会届を提出しました。そうは言っても私に出来る事は経験した事実と思いを伝える事位ですけれども。それも無理の無い範囲で。

2022年4月1日 長野県犯罪被害者等支援条例が推進計画と共に施行されました。5月には県知事から各市町村長に条例制定への呼び掛けをして頂きました。坂城銃撃事件をきっかけとしての県条例制定なのだとしたら、二人の命が無駄にならずに生き続けている事だと思っています。推進計画と共に見直しの検討がされて行くのでしたら、それは二人の成長している事と捉えていけると思っています。私の勝手な自己満足かもしれません。でもいいんです、それで。私の生きる糧となりますから。残された命の使い方として、二人もパパらしいと思ってくれていると思うんです。


家族思いの杏菜・・・妻と長男と仲良く手を取り合い

人の役に立ちたいとの思いの直人・・・世の為になる事を

二人と共にこれからも生きて行きます。

ずっと一緒だよ・・杏菜。直人。