お父さんにもう一度会いたい。声を聞きたい～被害者参加制度を利用した意見陳述書から～

公益社団法人おうみ犯罪被害者支援センター
N・M
「犯罪被害者の声　第14集より」

　陳述書を書くに至って、私は何度も書き直し、何度も泣き落ち込みました。簡単に書けたものではないと知っておいてほしいと思います。

　 私は進学のため、15歳で親元を離れ、18歳で結婚しました。子育て中は忙しくて実家にはあまり帰れませんでした。それでも、実家に帰ると父はとてもかわいがってくれました。正月も一緒に餅をついたりしていました。子どもが巣立ってからは、よく父に会うようになりました。父が脳梗塞を起こし、通院するようになると、必ず帰りに私の家に寄ってくれました。自動車から降りるときは、杖をついてそれは嬉しそうな顔をしてくれました。あの表情は決して忘れられません。その後、決まってかっぱ寿司に行きたいというので、一緒に行くのが楽しみでした。父は私を大事にしてくれましたし、子どもが巣立ってからは頻繁に会い、親孝行をしていきたいと思っていました。私は父が大好きで、とても大事な人でした。
　父は、誰とでも仲良く話をし、孫、ひ孫をかわいがる人でした。60歳を過ぎてから体が不自由になりましたが、トイレもお風呂も一人で大丈夫、デイサービスに喜んで出かけていました。デイサービスの催し物では、水戸黄門の役をしたり、カラオケで歌ったり、本当に明るい父でした。今でも、そしてこれからもあの笑顔を忘れることはできません。

　 行ってくるでなア

　 2017年12月27日、夕方4 時5 分、父はもう二度と帰ってきませんでした。朝、デイサービスは今年最後だと母に言い、「行ってくるでなア」と出かけていきました。
　あの日、社協がまだ慣れていない被告人に運転をさせなければ、あの日、被告人が父を送り届けることだけを思って脇見運転をしなければ、今頃、父は私たちの側にいたでしょう。
　忘れもしません。夕方5 時過ぎに電話がなりました。母からでした。「お父さんが事故で医療センターに救急車で運ばれやった。先に見にいってくれるか」。
　私は病院のすぐそばに住んでいるので、飛んでいきました。救急車が到着していて、廊下にはたくさんの人がいました。
　確か被告人の両親ももういたと思います。私のほうが病院の近くに住んでいるのに、被告人の両親が早く着くなんて、いかに父の家族への連絡が遅かったかと今はそう思います。長い間、廊下で待たされました。父が現場で即死していたとは、知る由もありませんでした。
　あとで聞いた話ですが、現場を通らないと病院に着くことができない母と兄が見た現場は、それはすごい有様で母は「これはあかんかったかも」と思ったそうです。4 トンのタンクローリーとの正面衝突……後に私も写真で見ることになります。
　診察室からもれてくる、被告人の「痛い、痛い」の声。あとで私は、「痛い、痛い」と言っても生きてるやん、と思いました。被告人の両親は、自分の息子だけが心配だったのか、私には父を死なせてしまって申し訳ないとあやまられた覚えもありません。私は過呼吸になり、父がもういないなんて嘘だと思うしかありませんでした。
　30日、お葬式の日、被告人の両親は葬儀所の入り口に立っていました。その時もただ突っ立っているだけでした。私たちが斎苑に行っている間、留守番の人が、被告人の母にたずねたそうです。「けがはどうですか」と。すると、母親は「命さえ助かってくれれば」と答えたそうです。今、父のお葬式に来ていて、そんなことがどうして言えるのでしょう。自分の息子さえ生きていればいいのでしょうか。
　母は正月2 日にふらつきから具合が悪くなり、病院に行きました。ストレスから血圧が上がり、ふらつきが出たということでした。それからの1 年で5 回ほど母は病院に行かなければならない容体になりました。心因性の突発性難聴にも苦しみました。父の急死が母には本当に辛かったのです。
　　 　1 月25日になっても、被告人やその家族からは何の連絡もありませんでした。こちらから電話すると母親が出て、私が名前を言っても、誰なのかピンと来ない口調でした。私たち家族は、1 日も早くどうして車線をはみ出し、対向車とぶつかり、事故が起きたのか知りたいその一心で、電話をしたのです。それが、そんな返答でびっくりしました。
　自分の息子が人を死なせてしまったということが、どれだけのことか。自分の息子が生きていればそれでいいのかと腹が立ちました。そのあと、何回か電話したことがありますが、いつも母親の返答には、不可解な感じがしました。のちに家の仏壇にお参りに来たときも、足をくずして話をしていたほどです。
　2 月6 日、父の帽子と眼鏡が見つからないので、警察に置いてあった事故車の中を探しに行きました。ペチャンコになった車を見て、涙があふれてきました。前は形がないほどつぶれていました。車の中に車いすはありました。車の中では帽子も眼鏡も見つかりませんでした。後に、ペチャンコだった助手席の足元から帽子だけ出てきました。 　2 月19日、やっと被告人に会うことができる日です。母、兄と被告人が入院している病棟まで行きました。
　目に飛び込んできたのは、母親と楽しそうに話をする被告人でした。別室に移動して謝られましたが、その顔を私達3 人で見たとき、言葉もありませんでした。被告人はニヤニヤとにやけた顔をしていたのです。
　「私たちの気持ちを思ってくれ」と言いました。事故の理由を聞いても、ぶつかった後のことは覚えているが、なぜ対向車線に出てしまったのか、わからないと答えました。これではいくら話をしていても、何もわからない、だめだと思い、腹立たしく思いながら帰ってきました。

　 申し訳ないと言ってほしかった

　 裁判が始まりました。被告人は、車を運転しながら12秒間も上空を眺め、「これだけ雪が降ってきたからスキーに行ける。今度はどこに行こうかな」と考えていたと証言しました。警察でも検察でも「覚えていない」と押し通した被告人が、初めて法廷で話した事故の原因。「そんなつまらないことで父が死んだ」と怒りで頭の中が真っ白になりました。
　被告人は反対車線に出て、ぶつかるまでがあっという間だったのかも知れません。しかし、父は反対車線に入っていき、タンクローリーが突っ込んできて、衝突するまでをすべて見ていたのです。どれほど怖かったでしょうか。
　さらに被告人は、事故を起こしてから、免許停止となる8 月3 日までの間、車を運転していたと話しました。それを聞いて本当に驚きました。被告人は自動車に乗るのが怖くないのかと思いました。死亡事故を起こしたのに、そのあと、車を運転することを何とも思っていないのか。普通の神経の持ち主とは思えませんでした。
　裁判の中では、被告人は二度と車の運転はしない、と言っていました。しかし、検察官の取り調べでは、「また車に乗る」と答えており、現に免許が取り消されるまで何も考えずに車に乗っていたのですから、被告人の言葉は信じることができませんでした。
　裁判の前、被告人は自分で退職届を出したと言っていました。その後、職場の課長に引き留められたので退職を思いとどまったのです。しかし、法廷では私から辞めろと言われたので、仕事を辞めたと発言を変えました。私たち遺族をあしざまに言っているようにしか思えず、それを聞いて怒りで震えました。しかも、被告人は辞めたら職場に迷惑がかかると発言しました。この被告人の言葉を聞いて、父の死を軽んじているとしか考えられませんでした。
　裁判では、被告人の父が情状証人として出廷しましたが、深々と頭を下げる一方で、「過度な要求をしてきた」と被害者参加人の私が悪いとばかりににらみつける一幕もありました。
　また、贖罪とは自分の家の仏壇の前で、自分が信仰している仏さまを拝むことで、それをきちんとやっていると証言していました。なぜ、それが贖罪になるのか全く分かりません。しかも、私たち遺族がなぜここまで怒っているかについても分からないと答えておりました。
　今後は被告人を監督し、交通ルールを守らせるようにするとも約束しました。でも、何も理解していない人物が被告人を監督することなどできないと思います。被告人は今頃、免許を取りに行っているに違いないと思っています。
　被告人の危険性は、交通ルールを守る以前の問題なのは明らかです。しかし、被告人の家族は、12秒間も空を見上げ、タンクローリーに突っ込んでいった被告人が抱えているはずの問題について、深く考えることは一切していませんでした。何が悪かったのか、私たち遺族がどうして怒っているのか全く理解しておらず、誠意を見せている自分は正しく、被害者遺族が間違っているとも言いたげでした。
　被告人や被告人の父は、法廷でも確かに私たちに頭を下げていました。でも、彼らの話を聞けば、これは形だけのものでしかないのは明らかでした。
　せめて、被告人には「自分だけが生き残ってしまって、本当に申し訳なかった」と心の底から言ってほしかった。
　ですから、被告人には厳罰を科してほしいと思います。なぜ、前を見ずに12秒間も反対車線に向かって走ったのか、被害者遺族がどのような思いをするのかを刑務所に入って勉強してほしいと思います。

　 毎月、月命日にお花を供えに現場を訪れます。行く途中から涙があふれ「お父さん、どんだけこわかったん。ぶつかる瞬間、どんな気持ちやったん」と毎回、問いかけます。父がいない今となっては、それを聞くすべはありません。母と兄は、あの事故現場を通らずに遠くに出かけることはできません。生きている限り、それが続くのです。でも、被告人やその家族は通らずに暮らしていけるのです。

　 裁判の日、加害者とすれ違いました。そのすれ違ったときの顔。一言もなく、一瞥もせず、知らん顔をしました。その表情を未だに忘れません。
　私は今も1 日に3 回は、ロウソクとお線香をあげています。それを毎日続けています。特に、父が亡くなった時刻である16時5 分は、必ずです。
　今も涙が尽きることはありません。これからもずっと気持ちが安らぐことはないと思います。

　 この2 年半、本当に短く辛く悲しく、毎日毎日父を思い出しては泣けてきます。もう一度会いたい。声を聞きたい。笑顔を見たい。お父さんに会いたいです。