犯罪被害者に寄り添い支える 公益社団法人 全国被害者支援ネットワーク

全国被害者支援ネットワークは、全国48の加盟団体と連携・協力しながら
犯罪被害に遭われた方々へ支援活動を行なっています。

犯罪被害者の声 性犯罪被害者の家族の思い

性犯罪被害者の家族の思い

公益社団法人被害者サポートセンターおかやま
匿名
「犯罪被害者の声第11集より」

前略、義父殿。あなたは2012年3月、岡山地裁から言われましたね。
娘に15年もかけて「人格を踏みにじる卑劣極まりない」犯行を続けた、と。そのことにより懲役10年の判決を言い渡されました。今、あなたはどのように罪と向き合っておられますか。
あれから彼女は養子縁組の解消をしました。戸籍上関係なくなったとしても、あなたという男を許すことはできません。許すべきでないと思っています。
  さて私が彼女と出会った当時は、義父からの性被害を受けていることなど想像すらしていませんでした。彼女からそんな告白を受け、戸惑わなかったといえば嘘になりますが、私は義父の彼女への性行為を止めさせようと行動を起こしました。闇に入り込んでいる彼女を現実に引き戻そうとするのですから、並大抵のことでは上手くいかないだろうとわかっていました。半分が一か八かの賭けのようなものです。
「待ち合わせ場所に来ようが来まいが、あなたを迎えにいく」と伝えました。ドキドキしながら大阪から岡山に向かったとき、彼女が待ち合わせの場所で待っていてくれたことは、現在のかけがえのない光ある生活へと続く始まりであったと思います。

その後、彼女との義父から遠く離れた生活が始まり、彼女の苦しみは解かれたと思った矢先にフラッシュバックが始まりました。不眠や悪夢、玄関の向こうに義父がいるのでないかという恐怖と混乱。一人での外出もままならなくなりました。
子どものころから義父に洗脳され続けていた彼女にとって、義父のいる家を出たことはとても恐かったことだと思います。私は彼女が話す義父との生活についてただ聞き続けるしかありませんでした。
彼女の人生の大半についての話を聞くので膨大な内容でしたが、側で聞いていると話の内容があちらこちらと飛び回ります。時に義父を絶賛するようなことを言ってみたり、時に辛い性行為のことを話したりと、彼女の状態は支離滅裂でした。そのうちにそばにいる私がこんな状態の彼女をこのままにしておいて良いのかと不安に襲われ、私が仕事に行っている間、彼女はどうしているのかと不安になりました。
仕事中も様子を知るためにメールや電話を山のようにしていました。それでも仕事が終わって帰るときは、彼女がちゃんと家にいるのか本当に不安の毎日でした。
こんな日々の中、彼女と相談し、当時住んでいた町の警察署に被害相談をしました。帰ってきた言葉は少しは同情してくれるものでしたが、最終的には「ここでの話でないから地元の警察に相談して」とか「気持ちで乗り越えるしかないよね」などと言われました。勇気を出して行動を起こしてみましたが、現実の言葉に打ち砕かれそうでした。私は彼女の受け続けた苦しみや失われた時間をこのまま簡単に終わらせることはできませんでした。
何となく彼女はこのままでは死を選ぶかもしれないとさえ感じていました。粘り強く声かけを続けたのち、彼女の一大決心により、地元の警察まで直接相談に行くことができ、VSCO まで繋げることができました。少しですがホッとした瞬間でした。

その後は毎月のように、警察・検察、裁判所へと遠路3時間かけて、3年間往復しました。交通費、宿泊費と経費負担も多く、また心身の苦痛、負担も相当ありましたが、2011年3月に裁判を終えることができました。裁判官の懲役10年と言った声は今も忘れることはできません。今までの苦労が報われ、それが結果として現れたことに2人で喜びの涙を流しました。
ただ、裁判が終わっても彼女にとっての苦しみの全てが解き放たれることはありません。裁判後、当事者として匿名の条件で取材、記者会見をすることになったのですが、会見の準備を待っていたときに、私たちの前である公共放送の記者が上司と電話でもめていたのです。記者は加害者である義父の実名報道をするべきと主張し、会見会場の前で大きな声で話していました。今思えば、女性記者でしたので正義感でもって記者会見に臨むつもりだったのでしょうが、私は会見時、身内の中での犯罪はその家族の未来、生活もあるわけですのでマスコミにはそのことを深く考えてほしいと訴えました。これも、二次被害の一つであります。

現在、義父は刑務所に収監されていますが、彼女も含め彼女の家族は義父に対しては憎しみしか残りません。刑期も年月がたてば終わりがきて、義父はこの社会に戻ってきます。その際、いろんなトラブルや過ちが起きないように備えるしかありません。事件は解決しても終わりは見えないのです。
家族やパートナーが被害者支援するのは一番そばに居るがゆえに、とても難しいことです。私はある意味彼女に苦しい思いをさせましたし、また自分自身も辛い思いをしました。

皆さんがもし身近な恋人や友人が身内との性行為をしていると知ったとき、どうしますか。自分の手を差し出すことが難しいなら自身は撤退して他に託す勇気をもってください。表面的なことだけでなく、その人の根深い所まで関わることもあるので、もしかしたら被害者自身から恨まれるかもしれませんし、自身の精神ももたないかもしれません。回避する勇気と適切な機関に繋げる勇気があればそれでいいと私は思っています。