犯罪被害者に寄り添い支える 公益社団法人 全国被害者支援ネットワーク

全国被害者支援ネットワークは、全国48の加盟団体と連携・協力しながら
犯罪被害に遭われた方々へ支援活動を行なっています。

犯罪被害者の声 私の想い

私の想い

公益社団法人くまもと被害者支援センター
自助グループさくらの会
K・Y
「犯罪被害者の声 第17集」より

令和5年、私も今年で68歳になります。智紗都が事件にあい私の前から姿を消して20年になろうとしています。
この20年という月日は私にとっては本当に短いものだったというのが正直な想いです。短いということは悲しみや苦しみ辛さが少しも変らずに続いているということです。智紗都との思い出は色褪せることはありません。数少ない思い出を時折り想いながら、そして泣きながら過ごしてきました。
しかしこの20年という月日の中で、私は年齢を重ね2人の孫は成長し友人の中には亡くなって行く者もいるようになりました。
私はその月日の中で被害者支援センターの方々と共に立ち上げた「さくらの会」という熊本の遺族会等を中心としてたくさんの遺族の方々とお会いすることができました。現在の「さくらの会」にはまだ2年足らずの遺族の方々もいらっしゃいます。その方々も含めてこの先私が経験した想いを伝えていくことに辛さも感じますが同時に希望も感じます。何をどのように伝えたらその遺族の方々の想いや悲しみが良い方向に行くのか個人によって違います。私がどの様な言葉を使いどの様な態度を取ればその遺族の方々が楽になるのかを考えることに生きがいを感じる様になりました。
私の歩んだ20年間の想いが講話などを通して色々な形になって示すことが、やっと遺族の方々も含めて多くの人達の為になっていることを幸せだと感じています。そしてその様な経験を通じて私はいつも智紗都を近くに感じることができるようになりました。
それから去年私は一つの決心をしました。それはこれからの5年間を智紗都の為にできるだけ頑張ろうということです。九州各県の警察支援室に連絡を取り色々な活動をさせてほしいという願いを伝えました。(熊本が地元ですが熊本での活動は少し自粛していました。私が活動すればそれだけ新しい遺族の方々の活動のじゃまになると考えたからです。)
そうしたら熊本の支援室を中心として他県からも講話の依頼が来るようになりました。一つの講話をすることで多くの人達に命の大切さを伝えることができます。特に「命の授業」は本当に多くの子供達に命の大切さを伝えることができます。これから先も普通に続くと思っている時間なんて何の保証もありません。毎日の挨拶や親との会話がどれだけ大切な時なのか、毎日毎日友人達と会話して遊んで笑いあうことがとても素晴らしいことを伝えられます。子供達には本当にとても楽しい学生時代を笑いあって過ごしてほしいのです。
智紗都は私が買ってあげたパソコンを通してSNS をするようになり、そこで知り合った加害者に4年以上も過ぎて絞殺されるという事件に遭ってしまいます。それは結婚を申し込んで断られたことへの怒りからでした。4年間という月日は人間を悪人に変えるのには充分な時間でした。別の事件ですが、ある少女はSNS の書き込みの中で自殺をしたいという男性を見つけてしまいます。少女はどうにかして男性の命を助けてやりたいとの思いで会うことを決心したのですが、少女は男性と会ったその日に殺されてしまいました。
今の子供達はSNS の本当の怖さを理解していません。私はそのことを心から子供達に伝えることができます。
この事件は少女の父親が大事な娘が楽しい学生生活を送ってもらおうという思いから事件のたった3ヶ月程前にスマホを買ってあげたのが原因で起きてしまいました。
また現在は犯罪よりもやはり交通事故で亡くなられる被害者の方々が多いのが現実です。そしてその中でも歩行者や自転車に乗られる方々が一番弱い立場にいます。どんなにルールを守りながら道の端を歩いていようとも政策によって自転車で左側を走行していようとも、また青信号を守って横断歩道を渡っていようとも事故で亡くなってしまう被害者の方々がたくさんいます。それはほんの一部の人達がルールを守ることなく前方不注意をしたり飲酒運転をしたりスピードを出しすぎたり等々の平気で運転ルールを守らない人達がいるのが原因です。だから私は日頃から本当に周りに気を配って歩いたり青信号でもよく左右を注意をしながら渡らなければならないことを子供達に伝えることができます。
犯罪にしろ事故にしろこの世界のほとんどの人達は善き人なのですが、ほんの少しだけ悪しき人達がいるために多くの被害者がでていることを子供達に伝えることができます。
老若男女みな被害者としては一緒なのですが私はその中でも若くして亡くなっていく被害者の方々を少なくしていきたいと心から思っていますしそのための行動がしたいのです。
それからマスコミの方々にはマスコミが持っている可能性を伝える事ができます。書く記事によってどれだけ遺族の方々が傷付くのか、また反対に記事によってはどれだけ遺族の気持ちを癒やすのかを伝えることができます。マスコミの力は強大なことを伝えることができるのです。
警察の方々にも多くのことを伝えることができます。最初の警察の方の言動で遺族の心は違うものになりかねません。私の場合は最初はまともに取り上げてもらえませんでした。しかしある事から捜査をしていただけるようになり智紗都を土の中から見つけ出していただきました。最後に娘に会えたことに心から感謝しています。その後智紗都の最後の場所に行きたいと申し出たのですが却下されてしまいました。しかし心ある一部の警察官の方々のおかげで行くことができ線香や花やお菓子をたむけることができました。この一連のことで多くの人達の優しさをとても感じられたし、そのことを伝えることができます。この様にこの20年間に経験したことを色々の人達に色々の形で伝えることができるようになりました。子供達に命の大切さを伝えることができるのは全て智紗都のおかげだと思っています。智紗都の命が形を変えて多くの人達に命の大切さや日常の幸せ、思いやりの言動の素晴らしさ等々その他全ての今生きてこの世界に存在していることの素晴らしさを心から伝えることができます。そしてそれを具現化することは私に課せられた義務であり罰だと思っています。

でも本当は何もしたくなかった、あくまで事件や事故は他人事で良かったのです。今も智紗都を含めた三人の娘と妻がいて孫の成長を見守るただの父親でいたかった。たった一つの智紗都の命が失われたことで残された家族の運命は本当に変わってしまいました。一つの命の大切さ、ただ生きていることだけで周りの人達を幸せにすることを私は伝えることができます。
智紗都の命を通して多くの人達に幸せになってほしいと心から思っています。そして智紗都の話しを聞いた人の中から「これからも生きていこう。」と思った人がいるとしたら、それ以上にまさるものは何もありません。 

熊本県自助グループ「さくらの会」
代 表 米村州弘